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デムーロとルメール天国と地獄
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デムーロとルメール天国と地獄
やっちまったルメール

外国人騎手で初めて通年での日本中央競馬会(JRA)騎手免許を取得したフランスのクリストフ・ルメール騎手(35)=栗東・フリー=が1日、施行規程に違反したことでこの日から30日まで30日間の騎乗停止処分となった。2月28日に阪神競馬場の調整ルームに入室後、携帯電話でツイッター(簡易投稿サイト)を利用し、外部との通信を行った。注目のデビュー戦を目前に、日本でGI5勝の名手がまさかの失態を犯した。

日本競馬にとって歴史的な一日の始まりは、衝撃的なアナウンスで幕を開けた。午前9時の開門直後、この日、JRA騎手としてデビューするはずのルメール騎手の乗り替わりを告げる場内放送が流れると、阪神競馬場に詰めかけたファンからどよめきが起こった。

事の発端は、前日の2月28日。外部との接触が禁じられている調整ルーム入室後の午後9時以降に、ルメール騎手がツイッターを利用していることをJRA職員が認知。報告を受けた裁決委員が1日朝に本人に事情聴取し、携帯電話で2回、ツイートしたことを認めた。内容は不正につながるものではなかったようだが、これが日本中央競馬会競馬施行規程第147条19号に該当するため、1日から30日まで30日間の騎乗停止処分となった。

「今回は私の不注意でみなさんにご迷惑をおかけして、本当に申し訳ございませんでした」

事情聴取後に競馬場をあとにしたルメール騎手は、JRAを通じてコメントを発表。だが、2002年に初めて短期免許を取得後、昨年まで12年連続で日本で騎乗し、独自のルールも理解していたはずの名手が、なぜ失態を犯したのか。

事情聴取を行った庄村之伸裁決委員は「『ルールは理解していて、これまでは一度もそんなことはなかったけど、ついうっかりしてしまった』と説明していた。かなり反省していました」と様子を説明。また、ルメールに近い関係者は「体調管理のために(1日前倒しで)金曜から調整ルームに入っていたけど、『時差ぼけがひどい』と話していた」と証言した。

JRAでは、同様の違反行為は過去2回(11、13年)あり、いずれも30日の騎乗停止処分となった。最初の違反後、調整ルームでは携帯電話などの通信機器を、騎手自ら同施設内のセーフティーボックスに預けるシステムを導入していたが、徹底されていなかった。庄村裁決委員は「騎手クラブに対して周知徹底を行うように要請したが、現状の方法でいいのか、これから詰めていきたい」と改善する意向を語った。

ファンの反響も大きかった。中山競馬場に来ていた競馬歴20年の三浦敦さん(45)=会社員=は「きょうはルメールの馬券で勝負しようと思っていたのに残念」と話し、同35年の鈴木政博さん(58)=会社役員=は「楽しみにしているファンがいるのだから、しっかりしてほしい」と厳しい口調で話した。

JRA所属の外国人騎手誕生という日本競馬史の新たな1ページが刻まれた一日。同日デビューで重賞勝利を飾ったイタリアのミルコ・デムーロ騎手とは、明暗がはっきり分かれた。

◆柴田政人調教師 「ジョッキーとしての自覚が足りない。日本には日本のルールがあるのだからルールを守る点でもJRAのジョッキーにならないといけない。いい薬になるだろうし、心を改めて頑張ってほしい」

★ドバイ騎乗アウト

ルメール騎手は1日から30日間の騎乗停止処分を受けたため、ドバイシーマクラシック(28日、メイダン、GI、芝2410メートル)でハーツクライとの父子制覇に挑む、ワンアンドオンリーに騎乗できなくなった。

橋口調教師は「乗れないと聞いている」と困惑の表情。阪急杯で騎乗を依頼していたオリービンも乗り替わりになり、「知っていてするわけないから、ルールを知らなかったのかなあ。大事なときなのに」と名手のミスに首をかしげた。

★複雑ミルコ「さみしいね」

デビュー初日から重賞含む3勝と大活躍だったミルコ・デムーロ騎手だが、ルメール騎手の騎乗停止については複雑な表情。「ビックリしたよ。(午前)7時に聞いたんだけど、ジョークだろうと思った。(一緒にデビューできなくて)ちょっとさみしいね」と振り返った。

★他の公営競技では1年間出場停止も

ボートレースでは2004年に平田忠則選手が宿舎に通信機器付きの電子手帳を持ち込んで使用し、1年間の出場停止。2008年には郷原章平選手が宿舎に携帯電話を持ち込んで、6カ月の出場停止となっている。競輪では2003年に手島慶介選手が宿舎に携帯電話を持ち込んで使用して、1年間の出場停止処分を受け、オートレースの束田亮選手はレース場に携帯電話を持ち込んで、選手登録を抹消されている。

■競馬施行規程

第147条 次の各号のいずれかに該当する馬主、調教師、騎手、調教助手、騎手候補者又は 厩務員に対して、期間を定めて、調教もしくは騎乗を停止し、戒告し、又は50万円以下の過怠金を課する。

(19)競馬の公正確保について業務上の注意義務に違反した者

■調整ルーム

日本ならではの制度で、競馬場、トレセンに併設されている騎手の宿舎。競馬開催前に宿泊する。公正確保の観点から外部との接触を避けるため、騎手はレース前日午後9時までに入らなければならない。外部との連絡は禁じられ、面会も家族や厩舎関係者に限られる。

■クリストフ・ルメール(Christophe Lemaire)

1979年5月20日生まれ、35歳。フランス出身。96年に見習騎手としてデビューし、99年からフランスのプロ騎手免許を取得、以降は欧州の大レースで活躍。02年から短期免許で来日し、05年有馬記念(ハーツクライ)、09年ジャパンC(ウオッカ)など重賞18勝(GI5勝)。JRA通算245勝。JRAの通年免許を取得し、1日付でJRA所属騎手となった。

さすがのデムーロ

M・デムーロは最高のスタートを決めた。いきなり3勝を挙げる自らの新たな騎手生活を祝う快進撃に「すごいね。天国みたい。本当にうれしい」と思わず声を弾ませた。

阪急杯のダイワマッジョーレとは初コンビだったが、事前にDVDでチェック。「勝てる予感はあった」。力を信じ、直線では一心不乱に追い、重賞Vへ導いた。鼻差の勝利に「最後まで分からなかったけど良かった。乗りやすかった」とパートナーをたたえた。

世界で戦ってきたベテランでさえ、特別な一日だった。1Rはノースメイジャイで2着。レース後には「いつもと違ってちょっとドキドキした。見習いみたいな気持ち」と照れ笑い。2戦目の3Rで免許取得後の初勝利。ウイナーズサークルでのインタビューでは、想定の質問が用意されていたが、普段は流ちょうな日本語が出てこないほど緊張していた。

仲間の分まで盛り上げた。同じ日にデビュー予定だったルメールが騎乗停止。「ビックリした。ジョークだろと思った。(1人でのデビューは)ちょっとさみしいね」。明暗の分かれる結果に複雑な表情をのぞかせていた。

ルメールに対するツイッター
デムーロに対するツイッター