有馬記念・G1が行われる中山競馬場は難解なコースと言われる。ジョッキーの実力を問われる大一番で、最多タイの3勝を挙げているオリビエ・ペリエ騎手(41)=フランス=を単独インタビューし、攻略法を聞いた。
―02、03年シンボリクリスエス、04年ゼンノロブロイと3連覇していますが、秘けつは。
「まず、上質の馬であることが大前提だが、自分が勝ったレースを振り返ると、調教師が自分に完全に信頼を置いてくれていたことが大きかった。このレースは特に戦略が重要なポイントとなるが、陣営は私にフランスで言うところの『carte blanche(白紙の意)』をくれた。つまり、自分の思うように乗る自由を与えてくれた、ということ。そのことは非常に大きかった。有馬記念は非常にタフなレースだ。事前の分析もことさら入念に行う必要がある。実際に騎乗した時に、分析に基づいた騎乗プラン通りに乗りこなせること。それが勝利をつかむカギとなる」
―それぞれコンディションは違っていたのですか。
「シンボリに騎乗した最初の年は、タフな競り合いを制してのレースだった。2年目は馬がよりリラックスしていて、余裕を感じての勝利だった。3年目のゼンノロブロイは1頭が抜け出す形になった。ゼンノロブロイは、持っている力を出し惜しみしない馬だったから、思うがままに走らせることは賭けだったが、この時は馬を信じてMAXを出し切らせた。それで記録に残るレコードが出せたんだ」
―中山競馬場は直線も短いなど癖のあるコースですが、乗りこなすポイントは。
「中山は私が日本で最初に騎乗した競馬場なんだ。あれは1994年のヤングジョッキーズワールドCSだったかな。だから個人的にも思い入れがある競馬場だが、実際に乗りこなすのは難しい。まずはコースの特性を熟知している必要があるし、あまり差をつけられると追い上げることは困難だから、他馬との距離感や、自分の馬のペース配分は他のコースよりも難しいと言えるだろう。そして、脚のある馬であることは大前提。ゴール直前に後方から差し切ることは相当難しい」
―外国人ジョッキーのオリビエ(ペリエ)にとって、有馬記念はどのようなレースでしょうか。
「最も美しいレースだ。フランスに例えるならば、凱旋門賞に近い。日本人ジョッキーやファンにとっては、ジャパンCの方がもしかしたら上なのかもしれないが、年末、シーズン最後に一年を締めくくるという意味でも、独特の雰囲気を感じた。長いシーズンを経てのラストレースだから、ジョッキーとしても、そんな感傷に浸れるレースだった。そのせいか、ファンたちが自分のサポートする馬を一心に応援する熱意も、より強く感じられたような気がする。そんな意義あるレースで3連覇できたことは、自分のキャリアの中でも、本当に光栄だったと感じているよ」
―今年は豪華なメンバーです。どの馬にチャンスがあると思いますか。
「今年は混戦になるのではないかとみている。有力馬は多いが、コンディションをいかに持ってくるかだね。一年を通じて100%の力を出せるコンディションをキープするのは難しいし、年によっても、今年は良いが、翌年は劣る、といったバラつきがあるのが普通だ。その意味で一年間のレースの疲れがどう影響するか。それでもジャスタウェイは相当強い馬だし、優勝する可能性は大きいとみているが、ドバイやフランスのレースにも出走している。移動の疲れや異国のレースで走るという経験は、馬に予想以上の負担を強いる。その影響は思わぬところで露出することがある。レースの行方は、各馬の今年の消耗具合が、年末にきてどう影響するかによるだろうね。とはいえ、走ってみなければ分からないのが競馬だ。でなければ誰もが億万長者になってしまうからね(笑い)」
―スミヨン騎乗で優勝したエピファネイアのジャパンCはご覧になりましたか。
「見たよ。レース自体、とても見応えがあった。スミヨンは特性をうまく引き出して、レースの展開に見事に当てはめていた。直線の末脚は素晴らしかった。有馬記念でも注目の1頭であることは間違いないだろう」
―有馬記念で前人未到の3連覇という偉業を成し遂げ、このレースのスペシャリストとも言われています。それについてご自身で思うところは。
「若い頃から日本に来て騎乗していた経験は、とても大きかった。日本の競馬界では、『若手を育てよう』という意識が強く、駆け出しのジョッキーだった私は、日本へ来て、多くのことを教えられたんだ。特に藤沢和調教師からは多くのことを学ばせてもらったが、調教の時も、時には師自らが併走して、騎乗しながらいろいろなことを教えてくれた。このようなことはフランスではまずないし、他の国でもなかった。だから、若い頃に日本で学んだことが、その後のキャリアにもたらした恩恵は計り知れない。その後も渡辺(元)調教師、池江泰郎(元)調教師や角居調教師ら、素晴らしい調教師とともに働く機会を得た。有馬記念で結果を出せたのも、日本で騎乗を学んだおかげだ」
―日本のファンにメッセージを。
「まず、当日は自分が応援する馬を、とことんサポートして楽しんでほしい。それから、日本の馬が世界的にもレベルの高い素晴らしい馬だということに誇りを持って、これから先も世界のビッグレースを勝ち続けるということを信じて、応援し続けてほしい。その中にはもちろん凱旋門賞も含まれている。実際、これだけ質の高い日本馬が凱旋門賞に勝つことは時間の問題でしかないと思っている。これからも凱旋門賞にも応援に駆けつけてほしい。自分の信じる馬を応援して、競馬場に足を運んでくれること。それが我々にとっては一番の願いであり、競馬の醍醐(だいご)味でもあるからね」
(聞き手・小川 由紀子)
◆オリビエ・ペリエ(Olivier Peslier)1973年1月12日、フランス生まれ。41歳。89年に仏で騎手デビュー。リーディングを4回。凱旋門賞4勝(96年エリシオ、97年パントレセレブル、98年サガミックス、12年ソレミア)をはじめ世界の大レースを多数制覇。JRA通算379勝。身長164センチ。