JRA通算1823勝の名手がステッキを置く。3月から調教師に転身する中舘英二騎手(49)=美・フリー=が、今週の中山競馬で騎手として最後のレースに臨む。「逃げの中舘」として知られ、数々の名勝負を繰り広げてきた名騎手の最後の手綱さばきに注目だ。なお、25日の中山競馬場で最終レース終了後にウイナーズサークルで引退式を行う。
女傑ヒシアマゾンや、大逃げでスタンドを沸かせたツインターボとのコンビで名をはせた中舘騎手が、31年間の騎手生活に別れを告げる。
「ここまで続けられるとは、思ってもみなかった。VTRをみて、本当に下手だなと思うレースが何度もあったから」と振り返る。思い出の馬には、デビュー3年目にクラシックに挑戦したアサヒエンペラー(皐月賞、ダービーともに3着)を挙げた。「皐月賞なんて、ひどい競馬だった。怒られて当然」。重賞は勝てなかったが、この馬を通じて多くのことを学び、成長してきた。
「感慨に浸っている間もない状態です。やることがいっぱいで」。2月28日まで騎手として騎乗できるのだが、3月の厩舎開業の準備のため約1カ月早く退くことを決めた。
調教師試験に専念するためレースからは遠ざかっており、実戦での騎乗は昨年5月25日以来。それでも調教には騎乗しており心配はない。「最後はファンの人たちに見てもらいたかったので、スーツ姿での引退は考えていなかった。自分らしい競馬ができれば。日程のことも考えてデビューした中山で」と、勝負服姿で引退することにこだわった。
最終週は土日の4鞍。「久しぶりに競馬に乗るのに、こんなに多くの騎乗馬がいて、感謝しています」。逃げの名手としても知られるが、「逃げる? それは言えません。陣営からの指示もあるので」。名手はラストウイークでも手の内を明かさない。
「皆さんにかわいがられ、人に恵まれてここまできた。調教師になったとき、(自分を見守ってくれた人たちのように)大きな気持ちでいられるか、それが課題」。小さな大騎手のラストライドを目に焼き付けておきたい。 (芳賀英敏)
★中舘厩舎開業まで
3月1日に美浦で厩舎を開業するため、引退式のあとの約1カ月間は開業準備に追われる。「毎週ではないけれど、北海道の牧場にも顔を出しています」。現在のところ、引き継ぐ厩舎、スタッフは確定していないが「騎手としての実績は関係なく、ゼロから。衝突することもあると思うが、みんなで協力してやっていかなくてはいけない。来てくれるスタッフには感謝の気持ちで」とチームワーク重視の厩舎を目指す。
★引退調教師
2月いっぱいで定年を迎え、引退する調教師は8人。美浦は鈴木康弘、畠山重則、大久保洋吉の各調教師で栗東は梅内忍、小野幸治、梅田康雄、境直行、白井寿昭の各調教師。今年は2月28日(土)が最後の競馬となる。
■中舘 英二(なかだて・えいじ)
1965(昭和40)年7月22日生まれ、49歳。東京都出身。84年3月、騎手免許を取得して美浦・加藤修甫厩舎からデビュー(現在フリー)。2005年から09年まで5年連続で100勝以上をマーク。22日現在、JRA通算1823勝(歴代9位)。重賞は93年阪神3歳牝馬S(ヒシアマゾン)、94年エリザベス女王杯(同)、07年スプリンターズS(アストンマーチャン)のGI3勝を含む30勝。1メートル52、50キロ。血液型A。