がっちりと握手を交わすルメールと友道調教師。世界制覇を誓い合った
◆凱旋門賞・G1(10月2日・芝2400メートル、仏シャンティイ競馬場)
世界最高峰のG1、凱旋門賞(10月2日、仏シャンティイ・芝2400メートル)は過去94回、欧州調教馬しか栄冠を手にしていない。この聖域に今年の日本ダービー馬マカヒキで挑むクリストフ・ルメール騎手(37)=栗東・フリー=と、友道康夫調教師(53)=栗東=が対談。手応えやライバルについて語った。【取材、構成・橋本 樹理】
<1>前哨戦
―前哨戦のニエル賞を振り返ってください。
友道調教師(以下、友)「内容が良く、なおかつ結果もついてきた。レース後の息も楽だったし、競馬を使ったというよりは、強い調教をした感じ。直線でかわせるとは思ったけど、自分たちの場所からは斜めに見えていて。ゴール直後、みんなで『勝ったよね?』って確かめ合った(笑い)」
ルメール騎手(以下、ル)「僕は直線に入って、楽に勝てると思った。反応がすごく良かったから。ただ、前の馬が止まらなくて、ちょっと心配になったけど(笑い)。それでも、ラスト200メートルでは既に先頭に立っていて、そのままの差でゴールしたという感じ。ゴール直前でかわしたのではないよ」
友「直線ではずいぶん余裕を持っているなと思った(笑い)」
―確かに、ルメール騎手は追い出しをギリギリまで待ったように見えました。
ル「考えて、追い出すのを我慢したんです。どれくらい脚を使えるのかを試したかったから。そしたら、すぐに反応して『OK、OK。もう少し我慢して』となだめたくらい。シャンティイの直線は500メートル以上と長く、坂もあって、時間が十分あるから」
―レース中に右後肢を落鉄しましたが、その影響は。
友「どこで落ちたかは分からないけど、ツメ自体傷んでなかったし影響はない。落鉄したのは初めてだけど、本番じゃなくてよかった」
―友道調教師は海外初勝利。ルメール騎手もJRAの騎手として母国で初勝利を飾りました。
友「単勝1倍台で、勝ってホッとしたよね。今回は競馬場に着いた時が普段の様子と違って、気が乗っていて。下見所に行く時にはもう落ち着いていたけど、それも一回経験して変わってくると思う。金子オーナーがあんなに喜んでくださったのを初めて見ました」
ル「たぶん、金子さんと奥さんは(直線で)心配したと思う(笑い)。僕は大好きなシャンティイ競馬場で勝ててうれしかったけど、ニエル賞はそんなに重要ではない。すぐに次の凱旋門賞に頭を切り換えた」
〈2〉出会い
―マカヒキに初めて会った時のことを覚えていますか。
友「初めて見たのは1歳の8月の終わりくらい。(CBC賞勝ちのウリウリなど)兄姉は短距離だったし、マカヒキ自身を見ても短距離っぽかった。それが2歳の7月に函館へ入ってゲート試験を受けた時に、体形が変わっていた。気性もおっとりしているし、これなら距離はもつかなと。デビュー前にはクラシックに乗せないと、と思っていたけど、最初に見た時はNHKマイルCかなと(笑い)」
―ルメール騎手は若駒Sの1週前追い切りが初コンタクトでした。
ル「すごくおとなしかった。頭がいいし、自分の仕事を分かっている馬だなと。この時の調教ではチャンピオンホースとまでは思わなかったけど、レースに行ったら全然違った。『走る!』と思ったね」
―他の馬と違ったんですね。
ル「ほぼ完璧な馬。乗りやすいし、どんなポジション、ペースでも大丈夫。頭がよくて、おとなしい。そして、バランスがすごい」
―“ほぼ”完璧ですか。
ル「完璧な馬はいないから。でも体は春と比べて大きくなり、良くなった。経験を積んで行けばもっと良くなる」
友「成長したよね。春はぽちゃっとしていたが、つくべきところに筋肉がついた。それがフランスに行ってまた変わって、よりシャープになった。日本の馬場と違うから、体つきも変わってきた気がする。今回も一回使って、さらに体が良くなっていた」
〈3〉大一番
―初めて見た凱旋門賞を覚えていますか。
友「意識して見たのはエルコンドルパサーが2着だった99年。サンクルー大賞の時に現地にいて、本番は日本でテレビで見た。印象に残っているのはオルフェーヴルの1回目(12年)。勝利まであともう少しのところだったから」
ル「僕が初めて見たのは94年のカーネギー。かっこよかった。ポスターを自分で買って、ベッドルームに貼ってた」
友「へえ、そうなんだ」
ル「当時15歳で、ジョッキーにあこがれていたんです」
―今回の凱旋門賞から日本で馬券が買えることになりました。
友「やっぱり責任を感じるよね。海外より日本の方が(マカヒキは)人気するだろうし」
ル「日本のファンにとってはいいニュースでしょ。僕も楽しみ。もちろん自信はあります」
―ライバルとみている馬はいますか。
友「ポストポンドは強いよね」
ル「はい、強いです。他にもライバルはたくさんいるけど、愛チャンピオンS2着のファウンドも強い牝馬。(回避した)ラクレソニエールも一番のライバルだと思っていたけどね」
―最終追い切りはルメール騎手のアドバイスで、エーグルの周回コースで行うそうですね。
友「凱旋門賞の追い切りはニエル賞の時に使った直線コースより、周回コースの方がいいと言うので。フランスのことを当然よく知っているし助かりますね。大江(助手)もシャンティイで働いた経験があって、よく知っている。この部分は一番大きい。小林先生(調教師)からもアドバイスをいただくし、外国に来た感じではなく、日本で調教している感じ。全然心配事がない」
―日本初の凱旋門賞制覇へ、手応えをお願いします。
ル「ニエル賞はスローの上がり勝負でよかったが、凱旋門賞はペースが速くなるし、ハードなレースになるからトップコンディションで臨まなければいけない。難しいレースにはなると思うが、自信は大いにある。凱旋門賞はフランス人にとって、一番大切なレース。僕はまだ勝っていないが、日本の馬と一緒に勝ちたい。頑張ります!」
友「競馬のあと体に張りが出て、中から大きくなっているような感じ。ダービーの時は順調にきていて、『これで負けたら勝った馬が強い』と思うくらいマカヒキが出来上がっていた。今回もそれに近づいている。けっこうやれるんじゃないかと思ってます」
◆クリストフ・ルメール(Christophe Lemaire) 1979年5月20日、フランス生まれ。37歳。99年に同国で騎手免許を取得し、フランス通算1119勝、うちG122勝。02年に初来日し、15年3月にJRAへ移籍。JRA通算485勝。05年有馬記念(ハーツクライ)などG17勝を含む重賞34勝。
◆友道 康夫(ともみち・やすお) 1963年8月11日、兵庫県生まれ。53歳。大阪府立大卒業後、89年に栗東・浅見国一厩舎で厩務員となる。松田国厩舎の調教助手を経て01年に調教師免許を取得し、翌年に開業。JRA通算393勝。重賞はマカヒキのダービーなどG16勝を含む28勝。